天邪鬼は不満だった。
自分と遊んでくれる者はいない。戸を開けてくれと頼んでも、すんなりと戸を開ける者はいない。人々には自分の姿は見えないし、声も聴こえていないからだ。昔話の中に押し込められてしまっては、自分がいることをわからせるのは難しい。そもそも、「あまのじゃく」と正確に読める人間がこの世にいるのだろうか。
素っ裸に近い格好で天邪鬼は高い倉の天辺に立った。
見下ろせば、人々はせわしなく動き回り、牛のいない牛車が臭い煙を撒き散らしながら駆け抜ける。ほんの数百年前であれば、ここらは青々とした稲が茂り、そよ吹く風に揺れていたものだ。祠にはお供えものが置かれ、飯にこと欠くことも、悪戯にこと欠くこともなかった。それが、どうだ、このざまは。田んぼは消え、高い倉が所狭しと建っている。倉の壁には布団が干され、垂れ下がった幟(のぼり)のようだった。
天邪鬼は、ごろりと横になり、慌てて飛び上がった。ざらざらとした硬い石の面は、おてんと様の熱を吸って、焼け石のように熱くなっていた。「あちちあちち、こんちくしょうめ」と叫びながら、天邪鬼は日陰に逃げた。
低い音をたてて微かに振動する長持ちに寄りかかり、天邪鬼は空を見上げた。空はすっきりと晴れ渡り、山の向こうに白い雲が見えた。
天邪鬼は一計を案じた。素早い身のこなしで倉を降りていくと、山に向かって全速力で駆けていった。
晴れ渡っていた空は、一瞬のうちに黒雲に覆われた。切り裂くようにジグザグの光が落ち、どん! がらがらがら!、大気を震わす音が響く。叩きつけるような大粒の雨が降り出した。
人々が濡れながら走っていく。倉の壁に干してあった布団を大慌てで取りこんでいる。誰もいないのか、びしょ濡れになっている布団もあった。
天邪鬼は大喜びで、倉の天辺で踊り跳ねていた。ちょいと怒らせるように、二言三言、雷に囁いただけで、この凄まじさ。
光が天から地へと走る。
どん! がらがらがら!
轟音が響く。
天邪鬼は踊りながら叫ぶ。
もっともっともっと! 怒れ怒れ怒れ!
大気がくわと張る。眩い光が倉の天辺に突き刺さった。
どん!
翌朝、マンションの裏手にあるゴミ集積場の近くで、黒焦げの小さな塊が落ちていた。マンションの管理人は救急車を呼ぶか警察を呼ぶかと考えたが、結局、人間の子供にしては小さく痩せていて、何よりも尻尾のようなものが見えたので、山猿が落雷に当たって死んだのだろうと思うことにした。最近では、マンションが建ちすぎていて、築三年のこの建物ですら空室があった。不吉な噂がたてば、人々は他所へ引っ越していくだろう。不手際があっては、自分は失職してしまう。黒い塊を新聞紙にくるんでからゴミ袋に入れ、今日が可燃ゴミの収集日であったことに管理人は安堵した。塊の頭の辺りに小さな尖ったものがあったことは見なかったことにした。
―了―
〜「雷、救急車、マンション」「夏場の話」
急いで書いたので、いろいろと粗のある作品。
天邪鬼に尻尾ってあったけ?、と思ってみたり、
「可燃ゴミの収拾日」なんていう、おバカな誤変換もやっちまっている。
いや、それより何より、雷の描写は難しかった。
もっと上手く書けるようになりたいなあ。
今気づいたのだけれども、三文字タイトルが続いてますねー。