マジ、やめてほしい。
三年ぶりに会ったマサトは蓬髪なんて生易しいもんじゃない、もじゃもじゃ、とにかくもじゃもじゃに組んずほぐれず状態の髪を後ろで強引に皮紐で括っている(皮の元の持ち主のことは考えまい)。服装は、最初は青のチェックのコットンシャツ(私が餞別代わりにプレゼントしたから、ようく覚えている)にジーンズだったのに、今じゃ、原型を留めてないくらいにズタボロになっている。原始人だって、ちっとはマシだった筈だ。
そして、我慢がならないのが、この匂い。最後にお風呂に入ったのは日本を出国する前の日だったんじゃないの、ってくらいにクサイ。鼻をつまむべきか、口で呼吸をするのを止めるべきか、究極の二者択一。どっちも選べればないっつーの。
「お、感動に打ち震えて言葉も出てこないみたいだな、よしよし」
そう言って、マサトはガハハハと豪快に笑ったけど、こいつ、本当にわかっていない。この震えは、殴ってやりたくて握り締めた拳を理性で抑えているのだってことを。
「そうそう、忘れるところだった。感動の再会よりも、もっと感動的なものがあるんだ。ほれ、おまえに一番に見せたかったんだ、驚くなよー」
マサトはシャツの中に手を入れると、首に吊るしていた紐をたぐり寄せた。紐の先には直径五センチくらいのリングが結ばれていた。
「これはな、古代のシャーマンが身につけていたリングで、神の力を自分の中に取りいれようとしたものなんだ。原始宗教だから、神の概念は具体的なものじゃなくて、自然の脅威や豊猟を司るものに対してなんだけどな。ここに文様が刻まれているだろ、この細工だけでも値千金、現代の貨幣価値では計りしれないものがあるんだ。ほれ、遠慮するなよ、顔を近づけてよく見てみろよ」
鈍色のリングは間で三ミリくらい離れていた。U字型というよりは円に近い。表面に刻まれた文様の部分は黒ずんでいて、よく見れば、何かの絵のようにも、象形文字のようにも。
「ジャングルの奥地でこれを見つけた時は、ホント、感動したぜ。現地で雇ったガイドは途中でトンズラするし、食料は尽きるわ、熱は出るわで、このまま白骨化して、文字通り骨を埋めるんじゃないかと思ってたからな。このリングを身につけたら力が漲ってきてよ、どんなことをしても、オレはおまえの元へ帰るんだって思ったのよ」
だから、「やめて」と言ったんじゃないの。こんなことを繰り返していたら、命が幾つあったって足りないのに。どれだけ私が心配していたのか、私のことを本当に好きなら、どうしてそばにいてくれないの。
私は両手で顔を覆ってしまった。
「いや、だから、泣くなって。ちゃんとこうして無事に帰ってきたんだから。リング様様ってわけさ。ほら、こういう風に使うんだ。おまえもリングを身につけたら、きっと力が漲るぞ」
顔を覆ったまま、指先を開いて、そっと見ると……。
「いやあああああーっ」
叫びながら、右の拳を思いっきりマサトの顎に炸裂させてやった。
―了―
〜「原始人・宗教・貨幣」「現代の話」
久々にコミカルな作品。
地の分が、ちょっともたついている感じがするのが、なんとも。
リングは鼻環のつもりで書いていたんだけど、どうにもそのようには読解できないんじゃないかと思って補足を。補足じゃなくて、実際に鼻に付けている様子を書けばよかった。