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Author:芳野 朔
芳野です。自作小説と手芸、日々の雑感をたま〜に綴っていきます。尚、ここに投稿された小説の著作権は全て私、芳野にあり、他の文章はその筆者に著作権があります。無断転載・盗用等を禁止します。

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『出会い』

 予備校の裏階段の踊り場で、遼は、見るとはなしに雑多な街並みを眺めていた。個人面談を終えたばかりで、父親に連絡をすると言った講師の言葉が気分を重くさせていた。講師は今日中に父に電話を入れ、そしてその後は、お決まりの諍い。二浪目に入っても相変わらず伸びない偏差値は、何を言っても聞き入れてもらうのは無理なことを物語っている。講師が最後に言った「現実を認識しろ」という言葉が尖った石となって胃の底を転がっていた。石はやがて胃を侵食し、躯の中を喰っていくのだろう。いっそ、全部喰われてしまった方が何も考えなくていいのかもしれない。
「ねえ、君、南中でショートを守っていたでしょ。柏小ではレフトで四番、違う?」
 いきなり声をかけられ、遼は振り返った。
 透明なブルーのクリップで留めた髪がほつれて肩にかかっている。薄っすらと化粧をし、涼しげなキャミソール型のワンピースは白い肌を浮き立たせていた。国立医大コース、前回の模試ではトップだった片桐真帆だ。ピアスと揃いのネックレスが陽に反射して煌いていた。
 驚きは困惑に変わる。
 挨拶も自己紹介もなし、しかも、私立の女子高出身で、自分よりは一学年下。その真帆がどうしてそんなことを知っているのか。
 大きな瞳が挑むようにねめつけている。遼は適当に誤魔化して逃げようかと思ったが、どうやらそんな選択肢はなさそうだった。
「ああ、やってたさ。なんで、あんたがそんなこと、知ってんの?」
 少しぶっきらぼうだった、とも思ったが、口に出た時は遅かった。真帆は眉間に皺を寄せ、視線をそらした。
 
 漆原遼。
 小学校の時は小柄だった。チームの中で一番背が低かった。でも、走るのが速くて、レフトだけでなくセンターにまで走っていって球を捕らえるものだから、こっちはできるだけライト方向に打つように監督に指示された。
 ちゃんと名前も覚えている。球をキャッチした時のガッツポーズも、満面の笑みも。埃と汗と夏草の匂いも、歓声も何もかも。
 覚えていたから、中体連の時期は、遼のいる南中の試合をこっそりと見に行ったのだ。
 フルネームで声をかければ良かったのだろうか、でも、それじゃあ、ストーカーじみている。真帆は瞬時に浮かんだ迷いやシーンを打ち消した。
「私、西岡小でセカンドを守っていたの。市長杯で君の打ったボールが口に当たって、試合が中断したでしょ、覚えてる?」
 真帆は息を詰めるようにして遼の表情を覗ったが、何の変化も表れなかった。しばらくしてから遼が口を開いた。
「……思い出したよ。歯列矯正だかしていて、それで唇が切れて、血が出て大泣きしてたよね。救急車を呼ぶとかなんとか、親達が大騒ぎしてたよな。で、何? あの時はちゃんと謝っただろ。試合中の事故でわざとじゃないんだし、今更、そんなことを蒸し返して何が言いたいのさ、もう一度謝れとでも?」
「いえ、そうじゃなくて、そうじゃないの、謝ってほしいなんて全然思っていなくて」
 真帆の掌はじっとりと汗ばんでいた。動悸が激しくなってきて、目の前にいる遼にまで聴こえているのじゃないか、と思った。そう思うと、余計に緊張してきて、何を言いたかったのか忘れてしまいそうだった。

 変な女。いきなり昔のことを話し出したかと思ったら、今度はだんまりかよ。
 遼は心の中で毒づくと、階段を降り始めた。
「どうして、野球を辞めちゃったの! 私、漆原君は高校に行っても野球をやるんだって、ずっと思っていたのよ!」
 踊り場から降ってきた真帆の声に、一瞬、遼の背中は強張ったが、立ち止まることなく、そのまま階段を降りていった。

   ―了―


〜「クリップ、予備校、浸食」「複数の視点を持たせる」


久々に三語を書きましたー。
三人称で書いたのだけれども、なんだかヘンな感じが(・_・;)

登場人物の漆原遼クンは、前回書いた『ほとり』の遼クンです。そして、実は『      』のリョウ君だったりもするのだ。
ゴメン〜。
全部の話を繋げてちゃんと完結させるから〜、そ、そのうちに〜(^^ゞ



訂正。
「ピアスとお揃いの」を「〜揃いの」に直しました。。。。

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