ムラカミの日課は天使日記を書くことだ。
天使が微笑んだ、天使がムラカミの手首をそっと掴んだ、天使の指がムラカミの肘の内側を優しくなぞった、天使の両手がムラカミの頬に触れた、等々。
何を隠そう、ムラカミは毎日天使と会っているのだ。
あー、そこの君、眉をひそめちゃ、いかん。ムラカミは小学校、中学校と常にトップクラスにいたし、高校は県下でもちょっとは名の知れたところに入った。二十歳を過ぎた今だって新聞は毎日五紙は読んでいる。ムラカミの頭の中はちゃんと活動しているし、心の闇も精神疾患もない。うむ。賢い者なら、ピーンときたかもしれないな、天使が比喩であることを。
そう。天使とはサクラバさんのことだ。
サクラバカオリ。天使の別名としては、ぴったりの名前だろう。
サクラバさんは美人ではあるが、顔の美醜は関係ない。いや、ちょっとは関係あるか。ムラカミだって男である。そりゃあ、美人な方がいいに決まっている。だけれども、サクラバさんの美しさは心の美しさが具現化したものであると断言できる。断言できるほどにサクラバさんは心が美しい。
昔、サクラバさんと知り合った頃、ムラカミは時として皮肉や意地悪を言い、暴れ、サクラバさんを随分と困らせたものだ。今考えれば、あまりにも幼稚過ぎて汗顔の至りなのだが、まあ、ムラカミの事情を鑑みれば致し方ない。
サクラバさんの辛抱強さ、意識の高さには頭の下がる思いだ。時には優しく、時には厳しく、ムラカミに接してくれたおかげで、今のムラカミは自分を抑制できるようになった。不安や怒りがないわけではないが、それを他者にぶつけたところで何かが変わることはない。ようやくムラカミはそれがわかったのだ。
ムラカミの枕もとには写真立てが置いてある。一度、床に叩きつけたことがあって、ガラスの入ってない写真立てだ。
サッカーゴールをバックに高校生のムラカミがチームメイト達と一緒に写っている。濃紺のユニフォームは襟が赤で、下は濃紺の短パン。赤のサッカーソックスを穿いた両脚は日に焼け、膝は草や泥で汚れている。
今では、ムラカミはパジャマのズボンの中ですっかり細くなってしまった両脚を、自分の両脚であると認められるようになった。眠りから目覚めた時に奇跡が起きて、脚に感覚が戻っていないかと願ったこともあったが、今では、一つ一つの朝に目覚めることが奇跡なのだと思っている。
ムラカミは点滴の青痣がついた腕を伸ばし、ベッドサイドにある引き出しから日記を取り出そうとした。上手く掴めず、十数枚のページがぱらぱらと落ち、サクラバさんに伝えることのない言葉が踊った。
−了−
〜「短パン、日記、いじわる(意地悪でも可)」
ようやく三語が書けました。
流れが速すぎて、追いつけません。。。。
ええっと、この『天使日記』、わかりづらいだろうけれど、ムラカミの一人称で書こうとしたんですよ。「僕」や「俺」と呼ばせずに、自分のことを「ムラカミ」と呼ばせてみたんですけど、最後の最後で、三人称になってしまった。
どうにもこうにも、書きたいと思っていることを全部入れたら、最後でバランスが崩れちゃったし。
バランスを崩したくないのなら、ちゃんと統一して書けばいいのに、と、今更ながらに、ぐちぐち。
追記:
間違えて書いてたじゃないの〜。
「サクラバさん」とする所を「ムラカミさん」だなんて(・_・;)
訂正しました。
あー、恥ずかしい。。。。。