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Author:芳野 朔
芳野です。自作小説と手芸、日々の雑感をたま〜に綴っていきます。尚、ここに投稿された小説の著作権は全て私、芳野にあり、他の文章はその筆者に著作権があります。無断転載・盗用等を禁止します。

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『ピース』

 瞼を開けた時、不安がたゆたっていた。自分が自分じゃないような、私の中が空っぽのような、躯の重心がずれてしまったような、そんな感じがしたのだ。ぼんやりとした頭のまま横たわっていると、ああ、そうか、私は仰向けに寝ているのだ、眠っていたのだ、とわかった。背中は寝台のスプリングを感じ、後頭部は羽根枕の柔らかさを感じていたことを、今、知った。部屋全体が薄暗く、消毒薬の匂いがした。視力の悪い私の目は一メートル先ですらぼやけ、焦点を結ばない。けれど、シーツや掛け布団カバーは白く、きっぱりとした白さは確かだ。糊がきいているシーツは身じろぎをすれば硬い皺が寄り、肌に痛い。寝台に片肘をついて半身を起こそうとした。そういえば、眼鏡はどこだろう。
「無理をしない方がいい」
 低い声がした。深みのある、男性の声だった。
「もう少し眠りなさい。さあ、目を閉じて」
 柔らかな声だったが、その命令口調が勘に触った。私の肩に手が置かれ、腕の付け根に向かって視線を動かし、ようやく声の主を見つけた。男性であることはわかったけれど、顔の造作までは見えない。記憶を総動員して男の名前を探す。
 わからない……。頭が締めつけられる。痛い。
「君は階段から落ちたんだ。怪我はたいしたことはなかったんだが頭を打ったからね、それで少し忘れっぽくなっているけれど、心配ないから、じきに何もかも思い出すよ」
 男が早口に告げた。 
 階段から落ちた、頭を打って、忘れっぽく……。
 男の言葉を反芻しながら、ジグソーパズルのピースを嵌めていく。それからそれから、他のピースは何? ピースが足りない。足りないから私は空っぽ。
「さあ、大丈夫だから。飲み物を持ってこようか、お気に入りのアップルティーがいいかな」
 お気に入りのアップルティー、私はアップルティーがお気に入り、ティー。
「ティ……イィ」
 舌が思うように動かない。粘つく口の中で、何度もティーという言葉を繰り返す。
「ああ、喉が渇いているようだね、今、持ってくるから、横になって待っていてくれ」
「ティ……イィ、ティ……イ、テ……イ、テイ、テ……」
 掠れた声で何度も何度も繰り返す。忘れちゃいけないもの、絶対に忘れちゃいけないものがあったのだ、何だったのだろう。私は夫の腕を掴んだ。テイ、テ、いや違う、テ、デ、ディ、テディ!
 思い出した。とても大切なものだ、私にとって、私達夫婦にとって。
「テディ、テディはどこ?」
 私は小さく叫んだ。少しの後、夫は部屋の隅に行き、すぐに戻ってきた。焦げ茶色の塊を私の胸に置いた。ふわふわとした手触り、黒のつぶらな瞳、小さな耳、つんとした鼻。首に青のサテンのリボンが結ばれた熊のぬいぐるみ。私は抱きしめた。
「あなたに名前をつけてあげなくちゃね、テディだからセオドアはどうかしら、ねえ、あなた」
 私は夫に向かって微笑んだ。
 ようやく全てのピースが埋まった。私達夫婦にとってとても大切なもの。あなたのことを忘れていたなんて、私はママなのにね、ごめんなさい、セオドア、もうこれからはあなたのことを絶対に忘れないから。

*****
お題「ぬいぐるみ、パズル、記憶」

*****
あー、ちょっとマズった〜。
夫の腕を掴んだ時に、夫の顔を歪ませれば良かった。主人公は自分が強く掴んだから、夫は痛がっている、と思い込む。
うー、後の祭りだ〜orz

*****
あー、ダメだ。ちゃんと表現されていない。
ラスト、妻は記憶の全てを思い出してはいないのだ。
テディベアのセオドアが、自分達夫婦にとって大切なものだと思い込んでいる。
真実は違うことを夫も読者も知っている、という風に書きたかったんだけど、これじゃダメぽりん。

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ぞくりん

>などという読後感はありませんでした。

うわうわうわ、ぞくりん!としながら読んじゃいましたよ。そういう読後感はなかったのですね、ホッとしました(^^ゞ

お久しぶりです、小日向さん。
お元気でしたか?
私は、このところずっと忙しくしてました。三月末に両親が引越しをすることを決め、それ以降、手伝い(事務処理や荷物の整理)をしていたからです
長年住みなれた家から離れることに対しての感傷の時は、両親も私も、既に終わらせているのですが、荷物が全部なくなってしまえば、こみ上げてくるものがあるのかもしれません。
この経験もいつか小説になるのかなあ、と思ってみたり、こんな話、誰も読まないだろうな、と思ってみたり(笑)。
さて、明日はいよいよ引越しで、夜は、両親が我が家に泊まります。引越しよりも、自宅を掃除することの方が大変で、これから必死に頑張りますだ。

ピースの感想

おはようございまし。

ある女性から長く愛され続けた人形。
セオドアはいつしか意思を持つようになった。
セオドアの幸福は、女性の妊娠で崩れます。
初めての子どもです。夫の、そして妻の愛情は一点に注がれたことでしょう。セオドアのことなど、視界の隅においやって。
セオドアに芽生えた意思は、彼に一言こう告げます。
「この人の本当の子どもは、僕なのに」

パズルはもう完成しているはずなのに、余ってしまったピースが一つ。
望み通りまた女性に抱かれることとなったセオドアの、もし一言が聞けたなら、彼はいったい何を言うのだろう。
再び貴女の胸に帰ってきたという「ただいま」でしょうか、選んでくれたことに対する「ありがとう」でしょうか。
再び女性が完成させたパズル。その歪な一点が見えた気がして、ぞくりとしました。

などという読後感はありませんでした。
芳野さんの意図した、
>真実は違うことを夫も読者も知っている
もよくわかりましたし、冒頭、確認から徐々に「私」が覚めていく様子もよかった。
セオドアを最後のピースだと思い込んだ妻を見つめる夫の切なさが、にじむじぇ。

あ、でもぉ、男が夫に変わる瞬間は、最後の「ねえ、あなた」まで待って欲しかったなー。

ほんなら、またー。

こんにちは、琥珀さん。

読んでくださったのですね、ありがとうございます。

視覚に頼らずに、また、不安定な気持ちを描写してみたくて、トライしました。
主人公は、自分達夫婦にとってテディベアのセオドアが大切なものである、と思っている。
が、作中の事実は、主人公は、お腹の中の子供にセオドアという名前をつけ、日頃はテディと愛称で呼んでいたが、流産した。そして、ここに書かれてあることを、毎日、繰り返している、という設定でした。

FCで短期記憶、長期記憶の話が出ていたので、そんな話も書いてみたかったのです。

タイトルの『ピース』は、鍛練場でおづねさんが感想に書いてくださったとおり、パズルのピース、平和のピース、とかけました。
パズルのピースは、全て収まっておらず、だからこそ、主人公は平穏の中にいる、そんな感じですね〜。

ところで、チャレンジカップ。
皆さんの作品を読ませていただくのを、楽しみにしております。
よろしく〜。

ピースの感想

 この作品は、三語で創られたものですよね。お題を上手に消化し、上手く使いこなしていて、とても感心しました。
 読み終えて印象に残るのは、全体をとおしての風景描写が巧みなところでした。
 ラストについては、芳野さんが狙っていた結末として読みとらず、奥さんはルーズベルト婦人だった、という変な読みをしてしまいました。← ┐(´(エ)`)┌ クマッタ人

 そうそう、チャレンジカップへの参戦、ありがとうございました。ブログのリンク張っておきましたね。
 ということで、よろしくです!
 
 

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