「アホブー? 唯ちゃん、何なの、それ?」
「いや、だからさ、そのアホブーが、このガッコのどこかに封印されていて、それが目覚めて大変なコトになるらしいんだ」
「アホブーって、何だろう? ゲームに出てくる怪物かドラゴンのことかなあ」
「アホブっていうくらいだから、豚みたいなカタチしてて、脳味噌からっぽなんじゃね?」
「アポカリプス」
「は?」
私と唯ちゃんは、それまでずっと黙っていた(いつも黙っているんだけど)比奈ちゃんの顔を見た。比奈ちゃんは読んでいた文庫本を閉じた。
「アポカリプス、黙示とか啓示っていう意味ね。ヨハネの黙示録のことでもあるし。怪物やドラゴンというよりは、何かの書物かもしれない。その噂、唯が知ってるってことは結構広まっているの?」
「おお、そうよ。ハンド部でも柔道部でも盛り上がりまくりよ。テニス部なんかちゃらちゃらしてるもんだから、きゃー、こわい〜、ってなカンジで」
唯ちゃんは四個目のおにぎりのラップをはずした。本当によく食べるなあ。食べるけど、絶対に太らない。それもそのはず。唯ちゃんの運動量はスゴイ。スゴイを通り越して人間離れしている。運動神経バツグンの唯ちゃんはハンド部、柔道部のかけもちで、バスケ部やサッカー部にも顔を出し、それから、えーと。
「舞、ほら、食えよ。さっきから見てっと、サラダとひじきの煮物しか食ってないじゃないか。そんなんだと、ぶっ倒れるぞ」
目の前に、おにぎりが突き出された。唯ちゃんが私を睨んでいる。
「え、だって」
断ろうとした瞬間、おにぎりが口の中に入れられた。口の中に広がるごはんの感触と海苔の匂い。ちょっとしょっぱくて、あ、鮭だ。私は思わずもぐもぐと口を動かしてしまった。ううう、ダメじゃないか、自分。やっと二キロ減ったというのに。舞のバカバカ。でもでも、おいしいよう。
「極端なダイエットは体に良くないし、それに、舞はちっともデブじゃないぞ」
唯ちゃんが、にかーっと笑う。私は唯ちゃんにつられて笑いながら、おにぎりを食べた。三日ぶりのごはんだ。
比奈ちゃんは何か考え事をしているみたいで、頬杖をついていた。
「唯、アポカリプスの噂って、何が発端なの?」
「うーん。なんでも演劇部の連中のトコに怪文書が来たとかで、その内容ってのが、文化祭での劇を変更しないと、ライオンハートが封印されていたアポカリプスを目覚めさして、そうなると世にもオソロシイコトが、どうのこうのって」
「演劇部は確か、文化祭で新撰組をやるんだったわよね、舞?」
「うん。毎年、シェークスピアをやっていたんだけど、今年は違うものをやりたいんだって」
「エリザベスが聞いたら、がっかりするだろうな。なんだかんだ言って、あのオバサン、シェークスピアが好きだからなあ」
エリザベスというのは、私達の通っている聖乙女学園高校の理事長だ。七十歳を過ぎているけど、華族出身の由緒ある血筋で、バリバリの元気レディなんだ。
「そう言えば、エリザベスは今、どこにいるんだっけ?」
「コペンハーゲン。世界女性会議があるとかで。ちょっと待って!」
私達は顔を見合わせた。
「これって、なんだか、エリザベス絡みっぽくね?」
唯ちゃんの言葉に、私達は深く頷いた。