砂漠は迷路のよう。
出口は見つからぬ。
旅人は彷徨い続け、辿り着くは死の国。
シンはアンリオの歌を口ずさんだ。
先頭をアンリオの駱駝が行き、荷を積んだ十数頭の駱駝が続く。シンは最後尾の駱駝に乗っていた。手綱を握る六本の指に視線を落とす。小指の外側にもう一本の小指が生えている。
「土塊となって大地に戻るも良し、鳥となって大空を舞うも良し。この指がおのれの定めならば、その定めを操ってみないか」
夜の闇のように深い瞳。陶然とさせる低い声。大きな掌に自分の両手が包み込まれていた。シンは驚いて手を引っ込めようとしたが、アンリオの手の力は強く、動かすことができなかった。
アンリオの知っている外の世界を知りたかった。母親以外に、六本指に触れたアンリオに付いて行きたかった。シンはアンリオの言葉に頷いていた。
アンリオが村にやって来たのは一週間前だった。
アンリオは商人だ。ターバンを巻き、アッラーを敬い、自分達の言葉を流暢に話すが、その異国風の容貌は隠しようがない。自分達とは違う血を引いている、もしかするとキリスト教徒ではないか、と村人は噂していた。それでも、半年に一度、アンリオの隊商が運んでくる荷は必要であったし、アンリオの語る外の話に、老人も男も女も子供達も夢中になった。
昼間、アンリオの馬車の前には人だかりができ、ちょっとした市のように賑わった。夜はアンリオのテントの前で宴が開かれた。アンリオは珍しい果実と酒を振舞い、村人は羊を一頭ばらして焼いた。
弦を弾いて、アンリオが歌う。
焚き火の薪が爆ぜ、火の粉が飛ぶ。朗々と響く歌声に村人もシンも静かに聴き入った。
砂漠は迷路のよう。
出口は見つからぬ。
旅人は彷徨い続け、辿り着くは死の国。
砂となって埋もれよう。
塵となって去ませよう。
体は散り心は彷徨い、辿り着くは彼の国。
「疲れたか」
アンリオの言葉にシンは、はっとした。顔を上げると、自分の傍らにアンリオが来ていた。二人は並んで駱駝を進める。
シンは頭を振った。
「旅はまだ始まってもいないのだぞ。旅程の半分も行けば、楽しくなってくるだろうよ」
アンリオはそれだけ言うと、駱駝に鞭を打ち、先頭へと駆けていった。
―了―
「迷路、旅程、土塊(つちくれ)」「音の描写を入れる」