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Author:芳野 朔
芳野です。自作小説と手芸、日々の雑感をたま〜に綴っていきます。尚、ここに投稿された小説の著作権は全て私、芳野にあり、他の文章はその筆者に著作権があります。無断転載・盗用等を禁止します。

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『Lili Marleen』  鍛練場投稿作品

「どうしても行くのか」
 夫が窓枠に腰掛けていた。私は無言のまま鏡台の椅子に座り化粧を続けた。ブルーのアイシャドウを綿棒でぼかす。
 一時間前、子供達は友人に預けた。ずっと一人で頑張ってきたのだもの、そろそろ、あなたも自分の人生を楽しまなきゃ、友人はそう言って末娘を抱き上げた。デートだと信じきっている友人に私は曖昧な微笑みを返した。
 デートと言えるのかもしれない。勤め先のボスから食事とダンスに誘われたのだから。ボスの目的がそれだけではないことはわかっている。今日中に帰ってこれないことも。でも、二人の子供を抱えている私に、どんな選択肢があるというのだろうか。破格のサラリーを失いたくなかった。
 ルージュの蓋を外す。リップブラシに艶やかな赤を掬う。
 At the barracks compound,
 By the entry way
 夫が口ずさむ。鏡に映る私はルージュを上手く塗れない。震えるブラシは唇の形を外す。
「邪魔、しないで……」
 夫は私の声が聴こえていないのか、そのまま低い声で歌う。ノイズの入ったレコードのように、途切れ途切れの歌声は私を苛む。
 Then we'll see each other again
 Near that old lantern we'll remain
 バスルームに行って精神安定剤のタブレットを飲むか、サイドボードから夫が好きだったブランデーを取り出して一気に呷るか。何かを飲んで自分を麻痺させなければ、化粧も何もかも、先へ進めることはできない。肘をつき、指先を眉間に当てた。瞼を閉じる。お願い、最後まで歌わないで。
「邪魔をしているわけじゃないよ。無理をして欲しくないだけだ」
 夫の口癖だった。
――君には無理をして欲しくない。
 いつもそう言って、でも、無理をしないで生きていくことなんて、どうして出来るのだろう。
 その腕で私を抱くことも、その指先で私の髪を梳くことも、何もできないくせに。
 私は両手で顔をおおった。抽斗にある封書こそが幻であればいい。合衆国のために、英雄として、そんな言葉より、私が欲しいものはただ一つなのに。

  ―了― 

「タブレット、封書、綿棒」「男女の会話で静かな雰囲気を出す」





わかりやすくなったでしょうか。
前回、空白行と改行の指摘があったので、それも気をつけてみました。ちょっと苦しかった(笑)。

綿棒はかなり早い時期からあったのですね。アメリカでは戦前からあったようです。
この作品は、アメリカで、戦後、ということですねー。
『リリー・マルレーン』も調べてみると、なかなか面白かった。
いろいろな歌詞があるようです。

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