「どうしても行くのか」
夫が窓枠に座っていた。私は無言のまま鏡台の前で化粧を続けた。ブルーのアイシャドウを綿棒でぼかし、ルージュの蓋を外す。
At the barracks compound,
By the entry way
夫が口ずさむ。指が震えてルージュが上手く塗れない。
「邪魔、しないで……」
夫は私の声が聴こえているのか聴こえていないのか、そのまま低い声で歌う。ノイズの入ったレコードのように、途切れ途切れの歌声は私を苛む。
Then we'll see each other again
Near that old lantern we'll remain
バスルームに行ってタブレットの入った瓶を取り出すか、サイドボードからレミー・マルタンを取り出すか。肘をつき、指先を眉間に当てた。瞼を閉じる。お願い、最後まで歌わないで。
「邪魔をしているわけじゃないよ。無理をして欲しくないだけだ」
夫の口癖だった。
――君には無理をして欲しくない。
いつもそう言って、でも、無理をしないで生きていくことなんて、どうして出来るのだろう。
私達はもう、一つではないのに。
その腕で抱くことも、その指先で髪を梳くことも、何もできないくせに。
私は顔をおおった。嗚咽しながら、抽斗にある封書こそが幻であればいいのにと思った。
―了―
「タブレット、封書、綿棒」「男女の会話で静かな雰囲気を出す」
えーと、夫は戦死しています。
わからないですね(^^ゞ
リリー・マルレーンの歌をBGMにして読んでくださいまし〜。
男女の会話で静かな雰囲気。。。。うーん、難しい。
こういうカンジのものを書いたのは久々だなあ。