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Author:芳野 朔
芳野です。自作小説と手芸、日々の雑感をたま〜に綴っていきます。尚、ここに投稿された小説の著作権は全て私、芳野にあり、他の文章はその筆者に著作権があります。無断転載・盗用等を禁止します。

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『ハルカ、負けないっ!』

 年末のある日、シュン君からメールが来た。
 シュン君は我が学部、いや、我が大学ナンバーワンでオンリーワン(当たり前っ)のイケメンで、スポーツ万能、頭も良くて優しくて、もうもう、どこから見ても、イケメンの王道をダントツトップで独走しているのだ。そんなシュン君だけど、所属しているサークルは俳句愛好会。意外にシブイ好みで、そんなところも、ミ・リョ・ク。
 シュン君の実家は長野にある老舗の旅館。テレビ番組で紹介されたことがあって、檜風呂や茶室があったり、客室の床の間の掛け軸や壷は煤けているような感じだったけど、結構なアンティーク品らしくて、リポーターをやっていたタレントが大げさに驚いていたっけ。明治の有名な俳人が湯治に来たこともあるそうで、短冊が飾ってあった。美味しいお料理目当てに宿泊するお客さんもいるそうだ。
 シュン君は一人っ子だから、シュン君のお嫁さんになる人は旅館の女将となる。女将の仕事は大変そうだけど、愛があれば大丈夫、きっと乗り越えられるわ。って、そんな妄想に走っている場合じゃなかった。
 そうそう、シュン君からのメールには、「大女将が突然、大晦日に句会を開くって言い出したんだ。友達を誘いなさいと言ってくれたんで、ハルカもどう? こっちに来て、みんなと一緒に年越しをしないか? メグミちゃんや薫子、山田に聡子先輩も来るって返事が来た」
 もうもうもう、速攻でオーケーの返事を打ったわよ。
 だって、シュン君と二人きりで年越しをするんだよ? 新年を迎えた時、ヤドリギの下でシュン君はハルカにキスしてくれて、六月には教会で結婚式をあげるのよ。教会の鐘の音がリンゴン鳴り響き、ライスシャワーの下で祝福されるの。勿論、披露宴ではウエディングケーキをお互いに食べさせるの。ハルカもシュン君もまだ学生だけど、新婚の間くらいは二人っきり暮らしたいものね。シュン君は勉強を教えてくれたりレポートを書いてくれたりして、ハルカはシュン君のためにお料理を作るんだ。シュン君の嫌いな人参やピーマンだって、みじん切りにしてこっそり混ぜちゃうから。栄養のバランスは考えないとね、良き妻として当然のことでしょ。そしてそして、夜は甘く、とろけるようで、めくるめく官能を……。
 ハッ。
 何、このメグミだとか、薫子だとか、聡子って。みんな、シュン君を狙っているヤツばかりじゃない。山田は男だけど、こいつだって、何を考えているのかわかりゃしない。
 妄想に浸っている場合じゃない、シュン君と私の愛は簡単に壊れはしないけれど、油断大敵、ちょっとの気の緩みがウエストを増大させる、じゃなくて、トンビに油揚げを取られてしまうじゃないか。
 敵は句会にあり。
 将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。
 シュン君のハートをゲットするためには、大女将、つまりシュン君のおばあ様のハートをゲットしなければ。
 この半年、俳句愛好会のみならず、ご近所の俳句好きのご老人の所で鍛錬してきたハルカの真価が、今こそ問われるのよ。見てなさい、群がるオンナドモ、悉く蹴散らしてみせよう!


「皆さん、ようこそ、おいでくださいました」
 座敷の上座には、シュン君のおばあ様が座っていて、ご挨拶をしている。招待されたのは俳句愛好会のメンバーだけではなく、地元の若い女性やおじさんおばさんたち。でも、圧倒的に若い女の子が多い。鮮やかな振袖を着て、どう考えても普通の句会じゃない。ええい、静まれ、心臓の音。気を乱すな、意識を集中するんだ。おまえは強い。努力は恋を裏切らない。丹田に力をこめろ、ハルカ!
「では、しまきの一語を入れて、句を作ってくださいね。短冊に句を書きましたら、お手を挙げて詠んでください」
 座が水を打ったように静かになった。目を閉じたり、宙を見たり、それぞれのポーズを取って、皆、句を考えている。でも、ハルカ、泣きそう。だって、シマキって言葉、聞いたことも見たこともないのだもん。シマキって何? チマキ食べ食べ、のチマキの仲間、それとも中華のご飯のこと? も、もしかしたら、海かなんかにいる、ぐねぐねっとした動物? ああっ、ダメだ。心臓の音が激しくなっている。帯、締めすぎ、気持ち悪い、吐きそう。
「できました」
 薫子の声だ。薫子は微笑みながら、おばあ様を、次いで、隣に座っているシュン君を見る。シュン君が輝くように微笑んだ。く、くそう。
「サバンナを 風巻吹き荒れ 異常気象」
 一瞬、おばあ様の顔が引き攣ったように見えたのは気のせいか。他の参加者たちは「ほう、若い人の感覚は違うねえ」だとか、「斬新ですなあ」などと口々に誉めそやしている。
「できました」
 今度は聡子先輩だ。
「風巻く夜 こころ燃え立ち いかにせん」
 聡子先輩は潤んだ瞳で、じっとシュン君を見つめた。なんだなんだなんだー! シュン君はどうして、そこで顔が真っ赤になるんだいっ!
 こうして、みな、次々と俳句を詠んでいった。風巻というのは強い風のことらしい、と、ようやくわかってきた。でも、考えつくような俳句は既に詠まれているし、どうすればいい? おばあ様のハートをゲットし、シュン君のハートをゲットするような俳句を早く考えなきゃ、ハイクハイクハイク、ハヤク〜、なんてダジャレているバヤイじゃない、ヤバイ、ヤバ過ぎるっ。
「では、皆さん、句も出揃ったようですね。本年も終わりに近づいてまいりました」
 おばあ様がご挨拶を始めた。そ、そんな、一句も詠めないうちに、終わってしまうの。
「人間、諦めが肝心ですよ、ハルカさん。まだ十八歳なんだから、そのうち」
 隣にいる山田が眼鏡を指先で上げながら囁く。
「そろそろ、お開きといたしま」
「できましたっ!」
 おばあ様だけではない、シュン君や、座にいる全員の視線が集まった。山田を除いて。山田はひっくり返っていた。手を勢いよく挙げるついでに、山田を吹っ飛ばしてやったからだ。
 ごくり、と唾を飲み込んだ。できてなんかいない。でも、できたと言ってしまった。女に二言はなし、嘘つきは嫌いだ。まだ十八歳だけど、もう十八歳だ。どうすればいい、どうすればいい。シュン君を見る。
「風巻吹き 腰巻はらり R−18」

 除夜の鐘の音が厳かに響いてきた。




 めくるめく 愛は遠くに 除夜の鐘  


   ―了―



〜「ケーキ・年越し・アンティーク」「人参(漢字で!)・サバンナ・風巻(しまき)」

ええっと、10分オーバーしたけど、なんとか書けましたー。
俳句のことも句会のことも、調べていないので、その辺りはデタラメです。
大晦日に句会を開く、というのは、あり得ないと思うのだけど(しかも、旅館を経営しているし)、おばあ様は引退されていて暇であった、ということで。
作中の俳句は俳句にも川柳にもなっていないのは、作者の不勉強、センスがない、ということで、お許しを〜。

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Comment

グラッチェッ!

こんな風に褒められると、なんだか(^^ゞ
素直に、ありがとうです〜。

蛇足でしたかー。
最近、何をしても、俳句モドキを考えています。。。。まるで、友蔵さん(まる子のおじいちゃん)みたいに。。。。orz

こちらこそ、お世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。
安息さん、どうぞ、よいお年を〜。

「風巻吹き〜」の句が最高に抜群に格別に輝いておりますなっ!!
続く「除夜の鐘の音が厳かに響いてきた。」もずんべらぼうにすんばらしい。
エクセレント読後感!


「めくるめく〜」は蛇足だったかも。

今年も一年お世話になりました。来年もどうぞよろしくでござ候。

Sの人さん、さんくす〜

Sの人さん、早速のコメントとブログ拍手、ありがとう〜。
『師走でごわす』は文房具に方言を喋らせたかったんだけど、調べている時間がなくてパス。浮いたタイトルでごわした(・_・;)
低学年向きのものは、書くのが難しそうだったので敬遠していたのだけど、勉強して書いてみようかな。ありきたりな話にならないように、練ってみます。

ハルカは、妄想も行動も爆走していますね。笑っていただけて嬉しいです〜。
書いていても楽しいですねー。
勢いよく話を展開したいのだけど、そうなると、漫画のセリフだけを読んでいるような感じになってしまいます。加減が難しいなあ。
ハルカを、お馬鹿なだけのキャラにしたくないので、キャラ設定をもう少し考えたいところ。
実は、ハルカには人知れず優れたところがあるのだけれど、ある事件をきっかけにハルカはそれを封印している、とかなんとか。
ああっ、またしても、自分の首を絞める発言をっ(^^ゞ

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