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Author:芳野 朔
芳野です。自作小説と手芸、日々の雑感をたま〜に綴っていきます。尚、ここに投稿された小説の著作権は全て私、芳野にあり、他の文章はその筆者に著作権があります。無断転載・盗用等を禁止します。

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『師走でごわす』

 昔の人は、十二月を師走と呼んでおりました。師は先生のことで、先生も走るくらい忙しい月、という意味ですね。
 石山小学校のノンタ先生は三年一組の先生です。本当の名前は野村健太なのですが、「のんびり行こうや」が口ぐせなので、のんびり先生、ノンタ先生と呼ばれているのです。
 さて、石山小学校の二学期が終わり、冬休みとなりました。それまでは、他の先生もノンタ先生も忙しく、文字通り走り回っていたのですが、ようやく、少しだけのんびりできるようになりました。と言っても、先生たちは、毎日、学校に来ます。雪が降れば雪かきをし、昼間は職員室で仕事を、夕方は、グラウンドに作ったスケートリンクに水をまいてから帰ります。

 ところで、皆さんは落とし物をしたことがありますか?
 名前の書いていない落とし物は、誰の物だかわかりません。落とした子が気がつけば良いのですが、気がつかなかったり、新しい物を買ってもらったので、落とし物を探さなかったりします。たいていは、消しゴムや鉛筆のような小さな文房具や、傘やハンカチ、靴下が落とし物になっています。ノンタ先生は落とし物係ですから、生徒たちは落とし物を拾うと、まっすぐにノンタ先生に届けます。ノンタ先生は、それを預かり、毎週月曜日、児童玄関前の廊下に机を置き、そこに落とし物の入った紙箱を置きます。落とし物が持ち主の子に戻ることもあるのですが、ずっと、一年近く、落とし物箱の中で過ごしている物たちもいるのです。

 十二月三十日の昼下がり。明日は大晦日ですから、どの先生も学校には来ていません。ノンタ先生ですら、お家の大掃除をしたり、買い物に出かけたりしています。
 誰もいない学校なのに、廊下から、にぎやかな声が聞こえてきます。

「あーあ。先生もみんなも来ないなんて、つまらないねー」
「しかたないよー、冬休みだもん」
「ノンタ先生は毎日来てくれると思ったんだけどなあ」
「ノンタ先生、お部屋の中、ぐちゃぐちゃだから、大掃除をせにゃならん、って言ってたよ」
 小さな消しゴムたちが、くすくすと笑いながらおしゃべりをしています。
「それにしても、ノンタ先生、うっかり屋さんだよ。僕たちを片付けてくれないで、廊下に置きっぱなしだ」
 下敷きが、体をパタパタ揺らしながら言います。
「でもさー、外の景色も見られるし、ガラスケースの中にいる、お人形さんたちともお話できるから、私は廊下にいた方がいいなあ」
「オレはどこでもいいよ、角度が測れるのなら。ねえねえ、三角定規さん、角度を作ってよ。あ、九十度はダメだよ」
 分度器は右に左にころころと揺れながら、どこかに角度を測れる場所がないのか探しています。直角の九十度は、もう飽きたようですね。
「君たちはいいよなあ。オレなんて、オレなんて、ずぶ濡れのままだよ」
 廊下の隅にあるブリキのバケツの中から、黒い雑巾が、ふらふらと立ち上がりました。
「うあー、こっちに来ないでくれー」
「冷たいー、くさいー、きたないー」
 消しゴムたちも、三角定規も鉛筆や蛍光ペン、靴下まで大騒ぎです。
「あ、雪が降ってきた!」
 片方だけのミトンの手袋の声が響きました。落とし物たちが、いっせいにガラス窓に並びました。灰色の空から白くて大きな雪が、ゆっくりと踊るように降ってきています。落とし物たちの息で、ガラス窓がうっすらと曇りました。
 でも、赤いコンパスだけ、窓に並ばずに、箱の中で静かに足で円を描いておりました。
「元気だしなよ、コンパスちゃん。みどりちゃんは、きっと、戻ってきてくれるよ」
「うん……」
 コンパスはうつむきながら、円を描き続けました。コンパスの体には「さとうみどり」と名前が書かれています。コンパスの持ち主のみどりちゃんは、長い間、学校をお休みしておりました。フィギュアスケートの得意なみどりちゃんは、いつも赤いコンパスで円を描きながら、クラスのお友だちに「スケートでこうやって円を描いてすべるんだよ」と話していたのでした。
 みんな、しん、となりました。
 コンパスだけではありません。みんな、自分の持ち主の所に帰りたいのです。 

 ガシャガシャーン! どすんどすん!
 その時です。大きな音が響き、人間の、それも大人の大きな足音が聞こえてきたのです。落とし物たちは急いで箱の中に戻り、雑巾はバシャンとバケツの水の中に潜りました。
 やって来たのは、学校の先生でもノンタ先生でも、ガードマンのおじさんでもありません。
 毛糸の帽子を目深にかぶり、黒いジャンバーを着た、見るからに怪しそうな男です。泥棒でした。泥棒は、きょろきょろと廊下を見渡し、ガラスケースを見つけました。ケースの中には青い目の西洋人形や振袖を着た日本人形、インディアンの人形やマトリョーシカ、象の人形が飾られておりました。西洋人形の瞳は青い宝石でできていました。
 泥棒はガラスケースに近づき、曲がった針金をポケットから取り出すと、鍵穴に差し込み、右に左に回し始めました。落とし物たちは、どきどきしながら、泥棒の様子を見ていました。
 やがて、カチャリという音がしました。泥棒はにやりと笑うと、ガラスケースの戸を引きました。両手をケースの中に入れ、西洋人形を掴みました。人形の「助けてー!」という声が落とし物たちの耳に聞こえました。
 大変です。人形は泥棒にさらわれてしまいます。

「どうしよう、お人形さんを助けなくちゃ」
「ノンタ先生は、ノンタ先生はどうしていないの」
「先生たちはお休みだよ。僕たちで、なんとかしなきゃ」
「なんとかって、どうするの」
「まず、消しゴムたちだ。行けー!」
 と言うが早いか、下敷きは体を反らせて、消しゴムたちを次から次へと、泥棒の頭や背中に向かって飛ばしました。
 でも、泥棒は、振り向きもしません。
「次は三角定規だ」
 下敷きは三角定規、分度器、靴下、片方だけのミトンを飛ばしましたが、三角定規の先が、ちくりと泥棒のおしりを射しただけでした。おしりをさすりながら泥棒は振り向きましたが、足元に散らばっている文房具をちらっと見ただけでした。
「次はコンパスちゃんの番だ!」
「ダメだよ、人間に針を向けたらダメってパパとママから言われているの」
 赤いコンパスは首を振って、後ずさりしました。
「オレが行く!」
 叫びながら、バケツの中から飛び出したのは雑巾でした。
「よっしゃぁー!」
 下敷きは雑巾の後ろに立つと、思いっきり体を反らせました。
 バッシャーン!
 黒い水飛沫と共に、雑巾はものすごい早さで飛んでいき、見事に泥棒の顔に命中しました。びっくりした泥棒は、顔に貼りついた雑巾を引きはがそうとしました。でも、雑巾は手足に力をこめて泥棒の顔に貼りつきました。
「うがぁ、ぐざ、づめ。いででで、んぐっ」
 泥棒は言葉にならない言葉を発し、両手で雑巾をはがそうとジタバタしてます。両足もドタバタとしてます。
「それっ、今だ!」
 鉛筆や蛍光ペンたちが、いっせいに転がっていきました。泥棒の足の下に入り込みます。泥棒は両足をずるずるっと滑らしました。
「うが、うが、づめ」
 泥棒の足の裏が浮かび、ずっでーん!、という大きな音がして、泥棒は転んで、ひっくり返りました。

「おい、そこに誰かいるのかっ!?」
 ノンタ先生が大声が出しながら、走ってきました。
 ガラスケースが割られ、廊下にのびている泥棒と落とし物の文房具やミトン、靴下を見て、ノンタ先生は目を丸くしました。よく見ると、泥棒の顔には濡れた雑巾が載せられていました。


    ―了―

「師走・昼下がり・いくばく」「文房具を登場人物の一つにする」

自分で出したお題に苦しめられるなんてなんて。。。。
「いくばく」は使えなかった。「師走」と「昼下がり」も近かったなあ、と反省。

小学校二、三年生くらいの子供たちを対象にした作品。『ぞくぞく村』のような感じで書いてみたかったのだけれど、簡単にわかりやすく書くのが、これほど難しいとは思わなかった。
漢字は開いてないけれど、使用している言葉は、多分、読者にはわかると思うのだけれど、どうだろう。

ハヒハヒ。
今日が終わるまで、三時間切っちゃったじゃないか。
間に合うのか!? ハルカッ!!!!! 

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