恋人同士がデートするのに適した街はどこだろう。銀座、有楽町、それとも札幌?
銀座の恋の物語、有楽町で逢いましょう、恋の町札幌、これを聞いてピンとくるヤツは同世代にはいない。私の感覚が古いのはカラオケ好きの両親のせいで、子守唄がわりに聞いていたのは演歌に艶歌にナニワ節。ああ、ダメだ。ひとつ、聞〜か〜せ〜よぉぉおう、ねんこぉろ〜りぃ、なんてフレーズが間髪を置かずに浮かんでくる。本当に、私、二十四歳なの?
頭をぶんぶん振って、雑念を追い払う。
この際、街なんてどこでもいい。
十一月三十日、金曜日。ずっとずっと狙っていたフクヤマ君の誕生日。つい最近、学生時代から付き合っていた彼女と別れたという情報は、社内にはまだ流れていない。この事実を知っているのは、密かに情報を流してくれたミッチーと私だけ。ミッチーの残業を手伝ってやった昨夜、お礼にと、二人だけのオフィスで教えてくれた。同期入社のミッチーはいいヤツで、私達は不滅の友情を誓い合った仲だ。ミッチーがミス受付嬢と上手くいったのも、わたくし、ハルカが陰になり日向になり助力したからだ、と言っても過言ではない。
「ハルカ、いいな、押して押して押し倒せ。押し倒してしまえば、男なんかどうにでもなる。どうにもならなかったら、その時は」
ミッチーが口ごもる。なんだよ、なんだよー、どうすりゃいいんだ。もったいぶらずに教えろよ。
「その時は、どうすればいいの? 必殺技があるんでしょ、教えてよ」
「う、うむ。その時は、天命だと思って諦めろ」
いい度胸じゃないか、アドヴァイスをありがと。オフィスの床にぶっ倒れているミッチーを残し、私は真っ直ぐ帰宅した。恋の成就のハウツー本は山のようにある。山のようにあり過ぎて、全部を実行するのは無理だ。とりあえず、エステと美容室に行こう。自分の魅力を最大限に生かせる洋服も買おう。三十日は有給休暇をとって、ケーキと肉じゃがを作る。イチコロ料理は、やっぱり、肉じゃがさ。そして、寒さこらえて編んだ毛糸のマフラーも持って、フクヤマ君のアパートを訪れよう。ドアを開けてくれたフクヤマ君は、一週間の仕事疲れが溜まっていて、やや、やつれた顔。会社ではスーツ姿がびしっと決まっているけれど、自宅では、ユニクロのスゥエットなんか着てたりして。でも、どんなにルーズな格好をしていても、イケメンオーラは衰えることなく、誰も見たことのない素のフクヤマ君に私は思わずくらっときて、よろけちゃって、「大丈夫か、しっかりしろ」なんて、フクヤマ君の声を間近で聞きながら、逞しい腕に抱かれて、それでもって薔薇の香りの吐息と共に「サプライズ・パーティの一番のサプライズはハルカの愛なの」なんて、瞳に涙を浮かべて囁いて、そうしたらフクヤマ君たら、「嬉しいよ、ハルカ」と言い、お姫さま抱っこをしてくれて、きゃー、フクヤマ君たら、気が早すぎるうううう!
ハッ!
にやにやしているバヤイじゃない、かなりヤバイ状況だ。ヴィクトリアン・シークレットの下着、今から注文して間に合うかな。
決戦の金曜日は近いぞ、ハルカ!
―了―
〜「サプライズ・涙・有楽町」 「女性が喜ぶ話」
タッチの差で先を越されてしまった。
「女性が喜ぶ話」というのは読者が喜ぶのか、登場人物の女性が喜ぶのか、ちと迷った。
とりあえず、主人公の女性が喜んでいるというか、わくわくしている、という感じで。