「だから、ゲティスバーグの戦いで南部連合がヤンキーを蹴散らして勝利を収めていたら、『風と共に去りぬ』は生まれてなかったのよ」
大原は席についたとたん、眼鏡の奥の目を見開いて早口でまくしたてた。あまりにも早口過ぎて、僕は思考がついていけない。それにしても、一体全体どうしたんだ。学食のざわめきが引いていく。
「風だけじゃない、『若草物語』だって、まったく違った話になっていたはずよ」
なんという頭なんだ。そんなに短く切ってしまって。毛先がツンツンに立って、まるで亀の子たわしだ。しかも、Tシャツにチェックのシャツを羽織り、カーキ色のハーフパンツ。どこから見ても少年で、中学生というよりは小学生だ。大原の美的感覚には時々首を傾げる時もあるが、これは酷すぎる。
「……何、見てるの?」
大原の口調が変わる。気温が三度は下がった。僕は我に返る。
「あー、ええっと、随分と思いきって髪を切ったんだね、ジョー?」
これくらいのジョークなら僕にも言える。『若草物語』だけじゃない。知り合ってからずっと、僕は大原と一緒に映画を観てきた。雨が降っていようが、レポートの提出期限が翌朝で僕が修羅場中の修羅場であろうが、大原はポテトチップスと缶チューハイ、そして五本のレンタルDVDを持参して僕の部屋に奇襲をかける。三十分後にはチーズたっぷりのピザも宅配される。たいていは、三本目の映画の途中で大原は眠ってしまうのだけれども。僕は大原にとって人畜無害な隣人で、それ以上でもそれ以下でもなく、そんなことに疑問を感じたこともなかった。
「せめて、セシルと言ってよね」
そう呟くと、大原は横を向いた。右手で頬杖をつくものだから、左の横顔が剥きだしになる。小さな耳たぶに深紅のピアスが光る。すらりと伸びた首筋が、思いのほか白い。大原は少年なんかじゃない。僕は妙にどきまぎとした。
「じゃ、これから、DVDでも借りに行くか」
僕がそう言うと、大原は、ふくれっ面のまま、頷いた。
―了―
〜「ヤンキー、たわし、少年」
三語を書く時は、お題をどう使おうかと考えます。
若者言葉(?)の「ヤンキー」では使いたくなかった。南北戦争後の南部人の女性主人公の話にしたかったのだけれども、力及ばず、断念。
映画を絡めて書きました。主人公の向かいに座っているのは、大原 紅(くれない)、スカーレット・オハラです(笑)。
投稿してから、三回くらい読み直した。
いやあ〜、あまりにも中身がない。
ラストの台詞のあたりで、もう少し書けば良かった。主人公が気づいてしまった自分の感情を誤魔化そうとするような、そんなのを。